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自社ドメインから偽メールが送られる前に ― SPF・DMARCの最低限

別の記事で「メールのドメインを見ても見分けられない」と書きました。だからこそ、ドメインを持っている側で偽メールを送らせない仕組みを入れる必要があります。中小企業の実態と、設定の最低限を整理します。

最初に正直に書いておきます。SPFやDMARCを設定しても、すべてのフィッシングメールは防げません。

paypay.ne.jp」を装った偽メールはブロックできても、「paypay-info.com」のような似ているけど別ドメインから来るメールは止められません。これは別のフィッシングメール記事で書いた通り、ドメインの見分けはユーザーには難しい現実があります。

それでも、メール認証の3点セット——SPF(Sender Policy Framework:このドメインからの送信を許可するサーバーを宣言する仕組み)、DKIM(DomainKeys Identified Mail:送信メールに電子署名を付けて改ざんを検知する仕組み)、DMARC(Domain-based Message Authentication, Reporting and Conformance:SPFやDKIMが失敗したメールをどう扱うかをドメイン所有者が指示する仕組み)——を入れる価値は大きいです。「自社のドメインを名乗った偽メール」を、顧客や取引先に届かなくする効果があるからです。

何を防げて、何を防げないか

整理しておきます。

攻撃SPF/DMARC で防げる?
your-company.co.jp を名乗る偽メール✅ 防げる
your-company-info.com から来る偽メール❌ 防げない
似たドメイン(yourconpany.co.jp 等)からの偽メール❌ 防げない

SPF/DMARCは「完全に同じドメインの偽装」だけを止める仕組みです。それでも、攻撃者が最も労力なくできる「ドメインの完全偽装」を遮断できるので、入れない理由はありません。

中小企業の実態

メール認証の設定状況を広く見ると、傾向ははっきりしています。

  • SPFレコード:多くのドメインに何らかのレコードあり(ただし中身は別問題)
  • DKIM:設定している事業者は少数派
  • DMARC:設定している事業者は少数派
  • MTA-STS(Mail Transfer Agent Strict Transport Security:メールサーバー間の通信を必ず暗号化させる仕組み):ほぼ皆無

「SPFがあるなら大丈夫」と思いたくなりますが、ここに落とし穴があります。SPFレコードが存在しても、ポリシーが ~all(ソフトフェイル)や ?all だと受信側はメールをブロックしてくれません。「SPFを書いただけ」と「実際に偽メールを止める設定」は別物です。

そして、ポリシーを実際に効かせるための仕組みがDMARCです。DMARCは「SPFやDKIMが失敗したメールをどう扱うか」を明示的に宣言します。これが入っていないと、SPFを書いていても実効性は限定的です。

DMARCまで設定している中小企業は多くありません。つまり大半のドメインは、偽装されても受信側で止める仕組みがないということです。

経営者として確認すべきこと

技術的な詳細はベンダーに任せて構いません。経営者としては、以下を確認するだけで十分です。

  1. SPF・DKIM・DMARCの3つが設定されているかベンダーに聞く。「設定しています」だけでは不十分です。3つそれぞれが入っているか、確認してください。

  2. DMARCのポリシーが何か聞く。DMARCには p=nonep=quarantinep=reject の3段階があります。none は「監視のみ」で、偽メールを実際にブロックしません。最終的には quarantinereject まで上げる必要があります。

  3. 自分でも確認するscan(サイト診断)に自社のドメインを入力すると、SPF・DKIM・DMARC・MTA-STSの設定状況がすぐに分かります。ベンダーの回答と突き合わせると、実態が見えます。

何を守っているのか

最後に、なぜこれが中小企業で重要なのか。

自社のドメインを偽装した「請求書の差し替えのお願い」「配送状況のご連絡」のようなメールが顧客や取引先に届いたら、相手はクリックします。そこから個人情報の窃取、マルウェア感染、取引先からの信用失墜——どれも起き得ます。

自社を守るためだけでなく、顧客と取引先を守るための対策でもあります。SPF・DKIM・DMARCはコストはほぼゼロで、設定だけで効果が出る数少ない対策です。今日、ベンダーに一行だけメッセージを送ってみてください。「うちのドメインのSPF・DKIM・DMARCは設定されていますか?」と。